腸内細菌と漢方薬の新しい関係
- Yoshiko Omura
- 9月2日
- 読了時間: 4分
更新日:9月9日

はじめに
「腸活」という言葉が日常的になってきた今、食物繊維や発酵食品を意識する人は増えました。最近では、腸内フローラ検査で自分の腸内細菌のバランスを確認し、足りない菌を補うという方法を実践する人も増えています。でも、どんなに努力しても思ったほど調子が上がらない…そんな声も多く聞こえてきます。
腸内環境を整えるカギは、食事だけではありません。実はホルモンバランスや栄養状態が深く関わっているのです。そして、この“体の土台”を支えるために見過ごせないのが――漢方薬です。
「え、漢方薬が腸内環境に関係あるの?」と思われる方もいるでしょう。けれど最新の研究は、まさにその事実を裏付けています。
今回は、代表的な漢方薬「大建中湯」を例に、腸内細菌と漢方の意外な関係を分かりやすく紹介していきます。
漢方薬は“腸内細菌と二人三脚”で効いている
多くの漢方薬に含まれる成分は、そのままでは体に吸収されにくい構造をしています。小腸をすり抜け、大腸まで届いたところで初めて登場するのが腸内細菌。彼らが成分を分解・変換することで、実際に体に働きかける「有効なかたち」へと変わります。たとえば、大黄に含まれるセンノシドは腸内細菌によって代謝されて初めて下剤効果を持つようになりますし、黄芩に含まれるバイカリンも細菌による変換で薬効を発揮します。 つまり、漢方薬は「素材」、腸内細菌はそれを料理してくれる「調理人」、できあがった料理が「薬効」というイメージです。
最新研究:大建中湯は腸を直接動かしているのではなかった!?
大建中湯は、生姜・人参・山椒・膠飴から作られる処方で、昔からお腹の冷えや腸の動きを整える薬として知られています。理化学研究所とツムラの共同研究によると、この薬を投与すると腸内で特定の細菌が増えることがわかりました。 その細菌たちは プロピオン酸 という短鎖脂肪酸を生み出します。 すると、このプロピオン酸が腸の免疫細胞(ILC3)を刺激し、腸粘膜を守る「抗菌ペプチド」を放出。結果、腸のバリア機能が強化され、炎症が抑えられる――という仕組みだったのです。
要するに、大建中湯は腸に“直接効く”のではなく、腸内細菌を味方につけて免疫を調整していたというわけです。まるで舞台の主役は漢方薬でなく、裏で動く腸内細菌だった、という面白い構図です。
なぜ効く人と効かない人がいるのか?
漢方薬には「合う・合わない」がある、とよく言われます。これまで「体質(証)の違い」と説明されてきましたが、今ならこう言い換えられるかもしれません。
それは 腸内フローラの違い。
プロピオン酸を作りやすい細菌を多く持っている人は大建中湯の効果を実感しやすいし、腸内環境が乱れていてその細菌が少ない人は効果を感じにくいのです。
さらに大切なのは、「症状のラベル」で薬を選んでもうまくいかないということ。 便秘ひとつをとっても、冷えからくるもの、ストレス由来、水分不足、腸の動きが弱いタイプ…背景はさまざまです。 どこから来た便秘なのかを見極めないと、本当に合う処方には出会えません。
漢方と腸活の融合が開く未来
このように見ていくと、漢方薬は「昔ながらの知恵」というよりも、腸内細菌を介した最先端の腸活ツールといえます。臨床では、術後腸管麻痺や慢性炎症性腸疾患への応用も進みつつあり、腸内フローラ解析を組み合わせることで、誰にどの漢方薬が効きやすいかを予測できる未来も近づいています。さらに、プレバイオティクスやプロバイオティクスと併用すれば、腸内細菌を“育てながら”漢方薬の効果を最大化する戦略も考えられます。これは腸活と漢方を組み合わせた、まさに「腸活革命」と呼べるアプローチです。
まとめ
漢方薬は腸に直接働きかけるのではなく、腸内細菌と協力して薬効を発揮する――。大建中湯の研究はそのことを示す象徴的な例でした。医療従事者や研究者にとっては、これは「経験医学」として扱われてきた漢方を科学的に再評価する大きな一歩です。そして私たちにとっては、腸内細菌を理解することで「自分に合う漢方薬」を見つけるヒントにもなります。腸内環境を整えたい人にとって、漢方薬は決して古い知識ではなく、最先端のツール。腸内細菌と漢方薬のタッグが、不調改善や体質改善の未来を切り開いていくでしょう。
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